山室静・立原えりか編『よくばりな魔女たち――「海賊」作品集』目次

現代の創作児童文学 31
よくばりな魔女たち――「海賊」作品集
1987年10月 第一刷発行
編者 山室静・立原えりか
発行所 岩崎書店

もくじ
熊のてぶくろ(くまのてぶくろ) 生沢あゆむ(いくさわあゆむ) p7
赤い木 酒井眞理子(さかいまりこ) p25
三日ぶんの魔法(みっかぶんのまほう) たなかまるこ p41
ぼく、ねこになりたいよ 南史子(みなみふみこ) p57
緑のつぼ 北条裕子(ほうじょうひろこ) p72
満月の晩に(まんげつのばんに) 立原えりか(たちはらえりか) p90
青い地球はだれのもの(あおいちきゅうはだれのもの) 森のぶ子(もりのぶこ) p99
てのひらの食卓(てのひらのしょくたく) 楠誉子(くすのきしげこ) p117
キーホルダー 鈴木千歳(すずきちとせ) p135
月の光 安房直子(あわなおこ) p149
七番目のゆり椅子のなかに 蓮見けい(はすみけい) p157
解説 山室静(やまむろしずか) p177


北条裕子「緑のつぼ」のあらすじ

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かおるという女性がうたた寝をして起きると、机の上のつぼから水があふれていた。かおるはつぼを持って川へ行った。
すると、子供の頃に好きだったが遠くに引っ越してしばらく会っていなかった透という男性が現れた。透は身の上話を始める。
透の父は歯科医で、透自身は歯科医ではなく音楽評論家になりたかったのだが、父の仕事を手伝わされるようになり、しぶしぶ歯科医になった。
透にはとんでもない癖があった。音楽を聴くために遅くまで起きているため、歯の治療中にうつらうつらしてしまうことだ。しかし、指は迅速に動き、患者は満足している。音楽評論集を自費出版することになり、ワクワクして上の空の毎日を過ごしているうち、とんでもないことをしていることに気づいた。患者の健康な歯を抜いてしまっていたのだ。もうバケツ一杯くらい歯が溜まっていた。透はそれを治療室の古い戸棚に隠した。透はだんだん夜遅くまで音楽を聴かなくなったが、こんどは歯の山の夢にうなされてねむれなくなった。透はだんだんと疲れてきて、いっぺんに年を取ってしまったようになった。あいかわらず丈夫な歯を抜いてしまっている。
透の父と、最近もらったばかりの若いかわいい透のお嫁さんが透を休ませようと、旅行を勧めた。
ある夜、「透さん、今のようなことを続ければ、悪夢に悩まされ、人の生きる半分で死んでしまうでしょう。供養として、あなたが今までに抜いた歯を美しいきれいな水で洗い、土に埋めることです。ただ、普通の水では、あの血は決して取れませんから、注意なさい。」というお告げの声が聞こえてきた。透は大きめのカバンに歯を詰め、家の者には海辺で静養してくると言って、旅に出た。
かおるは透の長い話を聞き終わった。
透は、世界中の川や湖を回っても血は落ちなかったが、つぼから出た水がカバンを濡らすと血が消えたと言う。そこで、かおるがつぼのところに戻ると、つぼは無くなっていた。透はつぼを追いかけて走り、そのまま見えなくなってしまった。
かおるは、あの緑のつぼは、昔、診察室の戸棚からこっそり持ち出したものだということに気づいた。かおるには透のお父さんが抜いてしまった歯をあのつぼの水で洗っている姿が目に浮かぶようだった。
かおるが帰ろうとして、椎の木のところにくると、つぼからこぼれ落ちた水で濡れたところから、水が溢れ出ているのを見た。
「どこにも行かなくても、ここにこんなにきれいな水があるのに!」
まわりを見ると、汚れた歯が落ちていた。それを水で洗うと、真珠のような丸い玉になった。かおるは椎の木の根本に歯を埋め、透のために祈った。これで罪は少しでも軽くなっただろうか。
透とつぼは川に沈んでしまったのか、それとも透はつぼを追いかけて遠い世界へと旅に出てしまったのか。
透はここへ帰ってくるだろうか。どこかでつぼは見つかって、美しい水で歯の供養を済ませ、あの病院に戻ってお嫁さんたちと楽しく暮らすのだろうか。

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